ハーバード大学が、とうとう、「年をとるほど脳が活性化する」ことを突き止めたようだ。
トロント大学のシェリル・グレディー博士も、「国や企業のリーダーには高齢者のほうがふさわしいともいえるのです。若い頃と変わらない『脳力』を持つ高齢者は少なくありません。脳には優れた可塑性があり脳の備蓄、維持、補償がうまくできていれば70代、80代になっても人は優れた脳力を保てます」と述べている。
ワシントン大学で、約5000人を対象に、加齢による脳の様々な変化を、半世紀以上も追跡調査してきた「シアトル縦断研究」によると、認知力を測る6種のうち4種で、高齢者の成績は20代よりも良かったようだ。記憶力と認知のスピードには加齢に伴う低下が見られたが、言語力、空間推論力、単純計算力と抽象的推論力は高齢になる程、向上していたと言う結果が出ている。
カルレ・イリノイ医大で、40歳から69歳のパイロットの認知力の比較研究をしたところ、新たなフライト・シミュレーターの操作法を習得するには、高齢者のほうが時間がかかったが、衝突回避の成功率は高齢者のほうが高いという結果が出た。
今、世界的に、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)やSPECT(シンチグラフィー)といった造影診断法を利用しての研究も進み、脳には加齢に対抗するメカニズムがあることも証明されている。
例えば、記憶処理を主に担う側頭葉内側部が加齢により不活性化するに伴い、高齢者は前頭前皮質腹内側部、前頭前皮質背外側部も記憶処理に動員し、注意力といった認知機能の補強に前頭葉と頭頂葉の両方を活用している。若年層は単純作業には左右の片側の脳しか使わないが、高齢者では左右の脳を活用する傾向が見られた。
高齢者は若年層より物の見方が前向きになることも南カリフォルニア大学の研究が証明している。高齢になると情動反応を司る扁桃体がネガティブな刺激に反応しにくくなるからだ。また40歳を過ぎた頃からネガティブな記憶よりポジティブな記憶のほうが増え、その傾向は80代まで続く。つまり感情に左右されにくく、ストレスに強くなるということだ。
前述のトロント大学のシェリル・グレディー博士によれば、高齢者はひとつの作業の達成に向けて若年層が使わない脳の部位も活性化させているとのことだ。 高齢者の「頭の使い方」が変化する理由のひとつは脳の一部の機能低下を補うためだということだが、実は、それだけでなく、同じ結論に達するのに様々な脳の部位を使うので、より深い洞察力が生まれ、「知恵脳」になると考えられている。
リーダーの若年化がここオーストラリアでも起きている。60歳以上はリタイア生活に入り、今、政治でも企業でもリーダーとして活動しているのは、20代から50代の人たちだ。もちろん、世界的な傾向でもある。
もっと、高齢者がせっかく持った知恵脳を生かすことができる社会になれば、より良い世界になるのではないかと切に思う。それと同時に、高齢者も、リーダーとしての役割を担えるような人材になるべきではないだろうか?
仕事へのリタイアは人生のリタイアと考え、一生現役で、知恵脳を社会で生かしていく責任があるように改めて思う。
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